今月はアラブ人とユダヤ人の対立に焦点をあてた作品を紹介しております。
この作品は時代背景や宗教、文化、民族紛争、歴史などなどの予備知識がないとあまり面白く観れない映画かもしれません。 何も知らずにただ観ていると、近所のおじさんと不幸な家庭で育った少年の愛の物語、、、で終わってしまうのですが、、、実は隠れたメッセージや色んな仕掛けのある映画だと思います。
先ず、パレスチナ問題であるユダヤ人とアラブ人、創世記とコーランの対比が面白いです。 モモの父親が“本を読め”“金を貯めろ”と諭すシーンは、ユダヤ教の厳格な教えを象徴しています。 ユダヤ教の十戒では厳しく禁止されている“ものを盗む”“父母を敬わない”というモモの言動は、彼の反抗心をより鮮烈に表しています。 一方、イブラヒムおじさんが何故あそこまでモモに親切で、無償の愛を与えたか、、、それは、コーランの『神にすべてを委ねる』という基本概念が根本にあるからです。 (イブラヒムおじさんは実際、イスラム教徒のトルコ人ですが、、、)
昔ユダヤ人街であったパリの下町、オペラ座と北駅の間にあるブルー通り( Rue Bleue ) 、 イスラム教神秘主義教団の1派であるメヴラーナ教団の儀式「セマー」などなど、時代背景や宗教的・文化的背景が分かっていてこそ感動がある作品だと思います。 私たち日本人は、、、特に私のように戦後何十年もたってから日本に生まれた人間にとっては「分かろう、知ろう、理解しよう」という姿勢が必要かもしれません。 きっとパレスチナ、イスラエルに住む人々が観たら、ユダヤ人がコーランの教えを学んで行く姿など、強烈なインパクトを受けるに違いありません。
しかし、この映画はそれだけではなく、私たちに身近な「思春期」の頃の複雑な葛藤、成長、性に対する興味なども描かれています。 それから最も重要なのは、イブラヒムおじさんが何気なく放つ数々の名言。
「笑ってごらん。幸せになれるから。」
「モモがもたらしてくれたものは、もうおまえのものだよ。そして、モモが失ったものもおまえのものなんだよ。」
この作品は民族も宗教も世代も違う2人の人間の愛の物語です。 モモもイブラヒムおじさんも結局は孤独で寂しい人生を送っていた時に出会い、そして2人で人生を共に生きて行こうとします。 つまり、人間は一人では生きていけない、、、その言葉の通りです。 しかし、その反面、今現実にこの地球上で起きている民族や宗教の対立問題を背景にし、「どうして共に生きられないのか? 共存できないのか?」というすべての人間に共通した疑問を問いかけています。 劇中やエンディング・クレジットで流れるティミー・トーマスのヒット曲“ WHY CAN ' T WE LIVE TOGETHER ”は、文字通り『なぜ共に生きられないのか?』と訴えます。 60 年代を舞台にしたささやかな交流を描きながら、描かれるテーマ、提示されるメッセージは非常に現代的なものなのです。
最後に、ここでこんな事を言うのはおかしな事かもしれませんが、私はこの映画を観た後、あの「名作」をどうしても観直してみたくなりました。 それは、、、「ニューシネマパラダイス」です。 やはり傑作です。 「老人と子供の愛」を描いた作品で、未だあの作品を超えるものはないと思います。 物語、映像、景色、音楽、、、と全てが揃い過ぎていますね。
三村 奈々恵