ゴダールの映画は今までにいくつか観ました。「気狂いピエロ(1965)」「カルメンという名の女(1983)」「ゴダールのマリア(1984)」『「10ミニッツ・オールダー」の中の「時間の闇の中で」(2002)』などなど。ゴダールについて兎や角言うには、私はまだまだ未熟です。でも、このあまりに素晴らしい作品を一人でも多くのひとに紹介したかったので、今回、思い切ってゴダールを取り上げてみました。
この映画はまるで哲学書を読んでいるかのように、深く、真髄にせまった言葉が映画全体に散りばめられています。ゴダールは多くの引用文も台詞に取り入れています。カンヌ映画祭の記者会見の中でゴダールは、「文章、小説、絵画、景色の断片、好きな風景を撮る時、それはすでにある意味で引用と言えます。何かをもたらしてくれた作家に敬意を持って引用しています。」と言っていたのが印象的でした。ヴィクトル・ユゴ−、ドラクロワ、マチス、ピカソ、リキテンスタイン、ド・ゴール、アンリ・ベルクソン、シモーヌ・ヴェイユ、ハンナ・アレント、ジョルジュ・バタイユ、クリスタ・ヴォルフ、、、などなど次から次へと様々な分野からの名前と彼らの言葉が飛び出します。この映画がただの入り口、はじまりであるかのように、台詞の中に出てくる人物たちを追っていくと、更に深い歴史や人間の思考の世界へと入り込んでいきます。ちなみに私はシモーヌ・ヴェイユという人物を調べ、著書を読んでみました。これらの人物を知ったり、映画の背景にさりげなく飾られている絵画の意味などを把握していくと、ゴダール自身がもっと分かってくるのだと思います。
引用文だけでなく、ゴダール・オリジナルの言葉も非常に興味深く、面白いです。まるで子供のいたずら心のように皮肉っているところは思わず笑ってしまいます。
「ジュリア・ロバーツ主演の物語なんて、、、ハリウッドには物語も歴史もない。」
「名前のない連邦国家の住民の呼び名は?<答え:ありません(笑)>」「だからこそ他人の物語や伝説を必要とする、歴史のない国だから。」「記憶や普遍性のない地にレジスタンスはない。」
「シンドラー夫人は一銭も払われず南米にいる。」「タイタニックの世界的ヒットを話題にして何になる。存在、事物を語ろう。だが状況など語るな。」「ウェイトレスの給料は?3千〜4千、副業でもしないと生きていけない。しかし彼女らが月1万稼ぐようになれば、フランス人も聞く耳を持つだろう。」
「愛というが、、、国家ほど愛される者とかけ離れたものはない。国家と愛の崇高さは対極にある。国家には世界全体を抱擁する力がないか、失われている。宇宙全体は愛される者に客体として与えられ、愛する者には主体として与えられる。」などなど。。。あと、「スピルバーグ」って名指しで出てきたのには笑いました。
また「赤いオーケストラ」(ドイツ語:Die Rote Kapelle)とは、ナチスドイツ占領下のヨーロッパに存在したコミュニストのスパイ網に対してゲシュタポが名付けた名称、だそうで、、、知らなかった。勉強になります。
ゴダールは、まるで絵画を描くように、場面場面を撮影していくようです。なるほど!どこで一時停止しても「絵」にならない箇所がない!凄い事ですね。一瞬たりとも無駄がないゴダールの映像。美しいです。そして音楽の使い方も、あまりに美しいです。これはもう総合芸術ですね。
見終わった瞬間に内容を覚えていない、というような娯楽映画とは違って、ゴダールの映画は“考えさせる映画”。何故これが実現できるかというと、撮影者ゴダール自身がこの世界を、外界を「感じて」「受け取っている」からにほかなりません。カメラや、画面は、ただ「通すもの、流すもの」になりがちです。作者が「受け取っている」からこそ、作者の手を離れた作品に「魂、命」が吹き込まれ、それ自体が観る人々に何かを与える生き物と化す。それが芸術作品なのですね。(でも、完全な本物のエンターテイメント(娯楽)映画も好きですよ、私!)
私がボストンで学生をしている時、英語の授業でアメリカ合衆国風のエッセイ(論文)の書き方(ルール)を教えてくれました。大きな意味で、USA風の文法、とでも言いましょうか?
文章は、introduction(序文)からconclusion(結論)まで、まっすぐストレートに!決して横道にそれたりしない!明確に分かりやすいように!と。東洋の文章は、まるで迷路のように道筋がくねくね、そしてぐるぐる渦を巻き出し、結局最後にはどこに辿り着くか分からない、、、なんて先生が言っていたのを思い出しました。ゴダールも彼独自のわかりにく〜い文法(「分断と再構築」)を持っているので、何度も観直すほどにひも解けてきて、使い捨て映画ではなく、何度も楽しめます(笑)。思考させる文法、私は好きです。そして、そこからは「愛」を感じます。考えさせてくれて、ありがとう、みたいな。考えること、思考をやめてしまう状態は、私たちを危険な状態にさせる、堕落させるのでは?考えなくなってしまった人々を作ったのは、誰?何?どこに(誰に)責任があるの??? 追伸:
ゴダールのパートナーである、アンヌ=マリー・ミエヴィルの『そして愛に至る』もお勧めです。そして、そのDVDに収められている特典映像は必見です!ゴダールのインタビュー、記者会見は本当に面白いですよ!