タイ伝統の木琴楽器ラナートの第一人者、ソーン師の生涯を実話を基に映画化した感動の音楽ドラマ。幼少期のラナートとの出会いから、天才の名をほしいままにした青年時代、そして極端な西洋化政策の中で切り捨てられようとしていたラナートを守り抜く晩年までを、ラナートの美しい調べに乗せて綴る。 いま、一人の老人が息を引き取ろうとしていた。彼の名は、タイの楽聖とも言われる天才ラナート奏者ソーン・シラパバンレーン師。やがて彼の脳裏に、これまでの人生が甦る。19世紀末、タイがまだシャム王国と呼ばれていた時代。音楽一家の末っ子として生まれたソーンはラナートの演奏に天賦の才を発揮する。しかし、彼の兄がライバル奏者に暗殺されると、悲嘆に暮れる父はラナートを封印する。それでもソーン少年は、父の目を盗んではラナートの腕を磨いていった。 やがて成長したソーンは、数々の音楽競技会で並居るライバル奏者を次々と打ち負かし、彼の名声はかつてないほどに高まるのだが…。
"ラナート"とは"心を癒す"という意味を持つタイの古典楽器です。マリンバ奏者の私、三村奈々恵は、同じ木片の鍵盤打楽器に人生を捧げたひとりの人間の生涯を描いた映画に、ただただ惹き付けられてしまいました。自分と重なる部分もあれば、そうでない部分もあり、個人的にとても考え深い作品でした。 印象に残った台詞で、以下のようなものがありました。ラナート奏者になりたい、と言う息子に父親がこう言います。 「常に正しい生き方をすると約束しなさい。音楽を悪用したり、名声のために、人を踏みいじらぬ事。真に、音楽を敬い理解すれば、その時、視野は開け、未踏の境地に達し至高の喜びを得るだろう。」 深い言葉です。真髄をしっかりついていて、心に突き刺さる言葉です。痛いほどこの意味が分かります。 ソーンが青年時代、ラナートでの絶対音感を利用してお金儲けする場面には、呆れてしまいましたが、つまりそういう事に音楽を利用するな、ということですね。それだけでなく、現代音楽業界に通じる事も多々含まれており、考えさせられます。 この映画の中には、音楽の競技会なる場面が多く出てきます。つまり、音楽のコンクールですね。私はこのコンクールという形で音楽の「勝ち負け」を決めるシステムに日頃から、疑問を抱いております。私も国内、国外の数々のコンクールを経験済みですが、一度も好きでコンクールに出場した事はありません。できれば出たくない、という想いでいつもいっぱいでした。音楽とはそもそも「勝ち負け」「1位、2位」を争うものではありません。ハーモニー、調和、協調してこそ成り立つものです。ソロの演奏だって、聴いて下さる、そして、聴いてもらいたい、と思う対象なしには、リスナーとプレイヤーとの一体感がうまれません。 確かに映画にも描かれているように、コンクールをすることで、互いの向上心を刺激し合い、レベル・アップに繋がります。しかし、それに順位を付ける必要があるのか、、、何故なら、本来の目的がズレてしまう危険性があると思います。映画の中にあるように、競技会で負けたからといって、自分より上手な相手を暗殺するなんて、もってのほかです。コンクールとは、互いの向上心を刺激し合って、自分にない音楽性やテクニックを相手に見付けたら、尊敬し、そして自分の課題にするのが、よいコンクールのあり方だと思います。しかし、結果重視、、、つまり1位を取ることだけが目的になってしまったら、危険です。真に音楽を愛する者は、他人に順位などつけられなくても、自分より上手なひとには自分で負けを認識し、相手を敬い、そして自らをもっと磨こう、と努力するものです。 そこで、三村奈々恵は、音楽家の互いを刺激し合い、活性化する方法として「フェスティバル」を推奨します!音楽の甲乙、好き嫌いの判断も聴く側の自由でいいと思うのですね!だから、フェスティバルやコラボレーションは最高だと思います! また、映画の中のコンクールでは、「目」に見える違いが、評価の対象、甲乙の対象になっていますが、音楽は最終的に「テクニック」ではない、と思います。速弾きや、音を間違えない、、、というのは「テクニック」のレベルの問題で、私は第2に大切なモノと思っています。第1に大切なのは「心」だと思います。私も実際、アマチュアの方で、テクニックは全然ないけれど、そのひとの心の中が見える演奏に何度か出逢えて、感動し、涙したものです。たどたどしいテクニックで、音数は少ないけれど、1音1音に味があって、まるでその日との人生、歴史を観ているようでした。プレイヤーは音に心、命を込め、リスナーはその「音」を感じることができる関係は素敵だな〜なんて思います。 映画の中に、「音におごりが出ている」と見破るものがいました。「どうだ、オレはこんなに弾けて凄いだろ!」というのが音楽の本来の目的、力ではないことを、この映画を観て下さる皆さんにも理解して頂きたいです。 映画の中にあるように「近代化」「西洋化」を徹底する為に、政府がその国の伝統文化を否定し、禁止する内容があります。日本でもありましたよね、こういう事。先ずここで思うのが「強制」する事で、いい結果は必ず生まれないと思ったことと、新しいものを受け入れる姿勢は大変素晴らしいことだけど、古い様式すべてを否定し、消し去るのは、「まるで根のない木のようで、すぐに倒れる」と。。。ソーン師の素晴らしいところは、西洋文化のピアノの良さをちゃんと認め、受け入れ、ピアノと自分のラナートのデュエットを始めたところでした。音楽だけでなく、伝統文化や、習慣、生活様式などには必ず「意味」があって受け継がれているものです。良さがあるからこそ、受け継がれてきたのです。ルーツ(根)はしっかり大地にはって、どんどん枝を延ばしていって、時には真新しい、見た事もない「果実」を実らせてみても、いいのでは?と思います。
データ
公開日: 製作年: 製作国: ジャンル:
2005年12月3日 2004年 タイ ドラマ/音楽
キャスト&スタッフ
監督: 脚本: 撮影: 音楽: 出演:
イッティスーントーン・ウィチャイラック イッティスーントーン・ウィチャイラック ドンガモン・サターティップ ピーラサック・サックシ ナタウット・キッティクン チャーチャイ・ポンプラパーパン アドゥン・ドゥンヤラット:ソーン・シラパバンレーン師 アヌチット・サパンポン:ソーン(青年時代) アラティー・タンマハープラーン:チョート ナロンリット・トーサガー:クンイン ポンパット・ワチラバンジョン:ウィラ大佐 プワリッド・プンプアン:テュート スメット・オンアード
1997年、国立音楽大学を首席で卒業し、武岡賞受賞。 その後米国ボストンに渡り、ボストン音楽院で修士号を取得する。学生時代より国際コンクールで優勝を重ね、その卓越したテクニックと詩情豊かで ダイナミックなサウンドが評価され、史上3人目の「アロージ賞」を受賞。26歳の若さでバークリー音楽院講師を4年間務めた。現在東京在住。 趣味: 音楽鑑賞、映画鑑賞、読書、旅行、テニス 好きなもの: 音楽、芸術、文化、自然、子供、動物、 スペイン&中米のアート、イスラム建築